「水道給配水系における細菌管理の課題と最新の動向」というワークショップ(東京大学・水環境制御研究センター主催)に参加してきました。大学関係者だけでなく、市や都道府県レベルでの現場の実態報告が多数あり、有意義でした。

細菌再増殖について

水道水の水質に関する課題として、細菌再増殖というものがあります。これは、一旦は浄水場で適切に処理された水でも、末端の蛇口で(場合によっては)長いこと使用されずに滞留した結果、残留塩素がなくなってしまい、そこで細菌が増殖してしまう可能性があるという問題です。今後、日本では人口減少に伴い空き家の数も増えていくことが予想され、細菌再増殖の問題がより深刻になっていくとも言われています。

そこで、今後はそのあたりの実態を調査・評価していく必要があります。

培養法からオンライン検出法へ

従来は試料水中の細菌数を把握するために培養法を使っていました。これはその名の通り、試料を培養しなければならず、結果が出るまでに数日~2週間ほどかかるので、たとえば浄水場の処理水をこの方法で検査したとしても、それが安全であることを後追いで確認する方法でしかありませんでした。万一問題があった場合、既に配水済なので、ほぼ対応不可能ともいえます。また、この培養法では検出されない細菌(増殖が遅く、培養期間内に増殖しない、など)が存在することも知られており、必ずしもその水質の実態を示したものではないという指摘もあります。

そこで今、注目されているのがフローサイトメーターという測定装置です。

この方法では、以下のステップで細菌数を測定します。

  1. 細胞と結びつくと光る色素を試料に投入し、
  2. その試料を細い流路に流し、
  3. 流路の途中に検出器を置いて、光る粒子の数(=細菌の数)を数える

これだと色素を投入して染色するのに10分、検出に2~3分しかかからず、オンラインに近い形で検出することができますし、培養法で検出できないような細菌も数としてカウントすることができます。数社から測定装置が販売されており、装置によって多少メカニズムが異なるせいか、検出数の絶対値や検出下限などにばらつきはありますが、データの線型性は確保されており、今後、細菌数のモニタリングツールとして普及していくと思われます。

現場の調査報告と課題

実態調査の報告は、配水池からユーザーの蛇口まで、一般民家から病院まで、様々ありました。多くの調査結果において細菌再増殖が起きていることが示されましたが、それに対する提言としては「注意喚起が必要」「留意が必要」「何らかの対策が必要」というような抽象的なものに留まっていたように感じました。調査データがまだ少ないというのもありますが、仮にデータが揃ったとしても、費用対効果で考えたときに有効な手立てが(現段階では)注意喚起ぐらいしかないのかもしれません。

実際に対策しようとすると、結局のところ技術革新次第ということになるでしょうか。もちろん、配水時点での細菌増殖にかかわる有機物を極力減らすとか、滞留が発生しにくい配管の設計だとか、アプローチはいろいろありますが。
その一歩目としての、上記のオンライン検出法ということだと思います。まずは現状をより正確に、迅速に把握できること。その上で対策を練る必要があります。ひょっとしたら私が博士課程で研究していたQuorum Sensingが応用技術として使える日が来るのかもしれません(この場合はQuorum Quenching)。ただ、この手法は「細菌の増殖抑制」ではなく、「細菌が増えても無害」というのがコンセプトなので、受け入れられないような気もしますが。(Quorum Sensingについては、近日中に別の記事でご説明いたします)

終わりに

ともあれ、水中の菌数をオンライン(に近い状態)でモニタリングできるようになったのは素晴らしいことです。装置が小型化すれば、現場で試料を採取して、すぐに結果を知ることもできそうです。現状、何らかの形で培養法を用いておられる方は、業務効率改善の一環として培養法と置き換える、もしくは、併用することで菌数測定の確度を上げるとともに、トータルの作業時間を短縮できるかもしれません。